2011年1月6日木曜日

朽木 Kutsuki



 朽木‥くつきは琵琶湖西にあって、溝口健二監督の映画「雨月物語」に登場する、湖西の滅びた武家の姫様がたしか朽木氏の人だけれど、朽木の村は、古くからよい漆器をつくる木地師の集落があるとして知られていたらしい。

 朽木の漆器といえばまず、美しく細い線で菊の花が大きく描かれた盆があげられる。この片口‥酒上、ひあげともいって、祭礼のときなどに用いられる‥は、盆に描かれる菊花の半分が描かれていて、その豊かなかたちとも相まって、民藝というものの見本のように思われる魅力的なデザインとなっている。たとえば陶磁器などとはちがって劣化しやすい木のものだけに、よく残っていてくれたものだと思う。


Lacquerware, Kutsuki, Japan, Edo-period

堅手というもの about Kata-de



 李朝の堅手、といわれるやきものがある。高麗茶碗の文献によくみられる名称で、そもそも名前のとおり、堅そうな質感の茶わんのことをそう呼んだ。通常、李朝‥朝鮮王朝初期、15〜16世紀に作られた、白磁系のやきもののことをいう。

 白磁系、と書いたのは、一見白磁にみえないような青灰色や茶色の茶わんも、すべて「白い」やきものをめざして作られただろうからで、宮廷などに納められた官窯の製品のように手間をかけて製作されない‥土や釉に鉄などの不純物が多く含まれる‥庶民用の雑器も、気持ちとしては「白」に向かっているから。

 ひとくちに堅手といっても、もともと雰囲気で名づけられたものだから、その範囲は曖昧だし幅広い。限りなく白に近いものも、三島手を無地にしたようなものも、そう呼ばれることがある。



Bowl, Korea, Joseon dynasty 16th century

 堅手に対して「やわらか手」とよばれるものもあって、やはり文字どおり、堅手よりも柔らかそうだから、そういわれている。釜山ちかくの金海というところから出土することが多いらしい、金海手といわれるものが代表的。次の写真がそれらしきもので、しっとりと青緑色の釉調が粉引を思わせるせいで粉引と混同されることもあるけれど、化粧土は使われていない。




Bowl, Korea, Joseon dynasty 16th century


 こちらはお茶の世界でいうところの蕎麦茶碗の姿をしているけれど、いわゆる蕎麦茶碗のやわらかい印象とは違い、みたところは高麗青磁の流れをくむ堅手、といったところ。ただ、これが窯の中で少しだけ火が弱いところに置かれていたら、蕎麦茶碗になったのだろうと思わせる。



Bowl, Korea, Joseon dynasty 15-16th century

 近年多く招来される発掘の朝鮮陶磁の中でも、一般に広く作り、使われただろう堅手は、吟味すれば、楽しめるものをおどろくほど気軽な値で手にすることができる。伝世の名碗も、かつてはきっとそうして、楽しみながら選ばれたのかもしれない。


花器 The Bottle



 花を活けられる瓶や壺はいくつか持っているけれど、部屋でいつも使うのは、英国のなんでもないストーン・ウェアの瓶。
 マスタードか、インクか、何を容れたものなのかはっきりとはわからない。おそらく19世紀末くらいの、使い捨てに近いような雑器‥にもかかわらず、というか、だからこそ、どんな花も映りがよく、それでいて瓶自身の存在感もしっかりとある。
 デルフトのまろやかな白とは趣の異なる、マットな質感の白釉の、梅花皮‥かいらぎのような表情も好ましい。


Stoneware Bottle, about 19th century, England