2010年1月30日土曜日

李朝の白磁 White Porcelain for Ordinary Life



 李朝の白磁‥といえば、まっさきに思い浮かぶのはやはり満月壺‥タルハンアリ、とよばれるまん丸い大壺だろうか。あるいは面取りや鎬‥しのぎが施された壺や瓶の類かもしれない。
 いずれにしても、美術館に並んだり、ものの本でとりあげられたりするのはそうした名品であるわけだけれど、まだ白い磁器が貴重なものだった朝鮮王朝初期の頃ならともかく、一般にも広く普及していた19世紀あたりには、生活にかかわる様々なものが白磁で作られていた。

 写真の左奥の取手のついたものは灯火器‥ランプで、この頃の朝鮮半島ではごく一般的なかたちだ。拙蔵の品はそれでもなんとなく李朝白磁らしいしっとり感があるけれど、少し時代の下がるものになると、銅版転写でハングルがプリントされていたりもする。
 その手前の丸っこい器は日本の骨董屋さんではふつうは盃として紹介されている。こちらもやはり灯りをともす時に使われたもので、木製の灯火器にのせる油皿らしい。口もとが内側にすぼまっているので盃として使うにはどうだろう、と思っていたけれど、使ってみると意外になじみがよくて気に入っている。荒い砂がたくさん付着した厚い底も、眺めているとなんとなく愛らしい。
 そのとなりの小さいお皿は最初は何かの蓋かな、と思ったり、明器‥副葬品かな、と思ったり、やはり食卓で使った調味料入れの小皿だろうか、と考えたりしている。小さくて浅いので、あまりたくさん呑まない僕の盃としてはぴったりだ。
 右奥のお皿だけは他よりも古く、おそらく朝鮮王朝の初期から中期にかかる頃の作ではないかと思う。よく見ることのできる初期の白磁質の器とは器形や釉調が異なり、どことなく17世紀の初期伊万里の白磁と共通する雰囲気を持っているような気がするので、同時代のものかもしれない。地味で簡素な姿だけれど、これもまたとても可愛い。

 名品でなくとも、お小遣い程度で入手できるこれらの品々も、同じくらいの時代の同じような窯で作られていて、その肌あいや味わいは大きなものとかわらない。浅川巧の「朝鮮陶磁名考」には、こうした雑器としての白磁の様々な器形と用途が紹介されている。眺めながら、当時の生活を想うのも楽しい。


Clockwise from top Right, Plate 16-17th century, Small Plate, Oil Cup, Oil Ramp 19th century, Korea  Joseon dynasty