太白‥たいはく、という名がいつ頃からの呼称なのかはわからないけれど、その名の通り、当時の有田を中心とした肥前地方で作られていた真っ白な磁器と同じようなものを作ろうとした、美濃の陶工の試行錯誤の末に産まれたものであることは間違いない。
とはいえ、太白手はお世辞にも白いとはいえない、というか、むしろグレーにしかみえないのだけれど、これは、有田のように真っ白な磁石に恵まれていないからで、それでもなんとか白くみせようと、時には白い泥を化粧掛けすることもあったようだ。
このグレーの胎土や、山呉須‥天然コバルトを使った絵付けの色あいが、僕たちの目でみれば大きな魅力になっているのだから、現代のもの好きな人びとの感覚というのは不思議なものではある。
ところで、写真の4つの猪口のうち、所謂太白手は左のふたつで、では右ふたつは何かというと、こちらはおそらく同時代の瀬戸で作られた陶胎染付けの猪口であって、複雑だけれど、こちらはこちらでよく太白手と混同される。
よく見るとわかる通り、こちらの胎土はよく知られている瀬戸の石皿のものとそっくりで、本業土と呼ばれる瀬戸の一般的な土に、比較的灰が多めの釉がかけられているので、ほのかに黄色っぽい。絵付けの筆致も、石皿のそれをそのまま猪口に写したようでもある。伊万里の、きめ細かで洗練された絵付けとはずいぶん雰囲気が違って、達者でありつつ、いい感じにいいかげん‥というか簡略化されている。もっとも、その点は美濃産も同様で、いきいきと奔放な筆使いは本当にすばらしい。
Cups,
Left 2 - Mino, Right 2 - Seto Japan Late Edo period 19th century