2009年12月31日木曜日

デルフトのタイル Delft Tile



 デルフトの古いタイルの絵付けはほんとうに素晴らしい。こどもたちのいろいろな遊び‥ボール遊び、凧あげ、釣り‥や人びとの生活の場面から、聖書の物語、神話の世界、花や卓上の静物‥柳宗悦はレムブラントを想起する、と書いているけれど、まさにそのレンブラントやフェルメールが生きた時代の、オランダの風俗や信仰などの様子がいきいきと簡潔な筆致で描かれている。

 さまざまな絵柄があるなかでも、ことに魅力的なのは天使が描かれているものだろう。天使といっても愛らしいばかりではなく、何かいたずらをたくらんでいそうだったり、いじわるそうに見えたり、その表情ひとつひとつの豊かさ‥顔の見えないものも多いけれど、そこにも表情はある‥には感心するほかない。
 
 タイルのまんなかに描かれた絵のまわりの余白。この余白もまた、デルフトのタイルに魅かれる要素のひとつだ。広い余白の中心にぽつりと置かれた動物など、時には寂しげに思えるのだけれど、描かずに描いているこの余白が、ちいさなタイルの画面と物語に、広さと奥行きをもたらしている。
 世界中のやきものの歴史のなかでも、デルフトのタイルの藍絵は伊万里磁器の猪口と並んで、もっとも洗練された絵付けでありデザインであると思う。
 

Delft Tin Grazed Tile, The Netherlands  17th century 


Absolute Classic Masterpieces :











R.I.P.   Rowland S. Howard

2009年12月12日土曜日

山田萬吉郎さん Mr. Mankichiro Yamada



 務安は朝鮮半島の南西部、全羅南道にあり、光州とか木浦に近いといえば、あのあたりか、と想像のつく向きもあるだろう。
 山田萬吉郎さんは、戦前の務安で農場を経営してみえた方で、そのかたわら、務安近隣を中心に数多くの古窯址を訪ね歩き、その様子を一冊の本に著された。それが「三島刷毛目」で、雑誌「茶わん」に発表された文を中心に、昭和18年、「茶わん」を発行していた寶雲舎から発行されている。
 
 「三島刷毛目」の、他の多くの書物とは異なる魅力のひとつは、萬吉郎さんが研究者ではなく市井の趣味人で、この本が学術的なものではまったくないことにあるだろう。
 農場で働く現地の人びとや所謂「掘り屋さん」から「あそこに窯址がある」という情報を聞けば連れ立って出かけ、希少な陶片を手にして喜び、朝鮮陶磁の変遷について持論を展開するのだけれど、好きが高じてのこと、窯址をつきとめるまでのはやる気持ち、よいものを手にした時の高揚などが、読者である僕たちの感覚にとても近い。
 学者ではないからその文体は柔らかく、ただやきものについてだけでなく、日々の暮らしや周囲の人たち、窯址あたりの山や道すがらの様子についていきいきと達者に描き、かの地のかつての雰囲気を伝える。印象としてどこか牧歌的であるのは、萬吉郎さんが出版の時点では既に、宇治へ引き揚げてみえたからなのかもしれない。

 もうひとつの大きな魅力は萬吉郎さんの筆による挿絵で、採集した陶片が、当時のことであるから墨一色で描かれているのだけれど、その洗練された描線、絶妙な白黒のバランスはみごとというほか無い。白地に浅葱色で三島手の陶片を配した表紙は、時代を感じさせないモダンなデザインだ。
 鶏龍山窯址への旅の項では現地の景色がさらっとスケッチされていて、不思議に心が和む。朝鮮陶磁を好む者にとっては、愛すべき一冊だと思う。


Bowl and Pieces of Buncheong ware,   Korea   16th century
“Mishima Hakeme” by. Mankichiro Yamada,  1943  published in Japan

2009年12月6日日曜日

美濃の太白手 Influence of Imari 




 太白‥たいはく、という名がいつ頃からの呼称なのかはわからないけれど、その名の通り、当時の有田を中心とした肥前地方で作られていた真っ白な磁器と同じようなものを作ろうとした、美濃の陶工の試行錯誤の末に産まれたものであることは間違いない。
 とはいえ、太白手はお世辞にも白いとはいえない、というか、むしろグレーにしかみえないのだけれど、これは、有田のように真っ白な磁石に恵まれていないからで、それでもなんとか白くみせようと、時には白い泥を化粧掛けすることもあったようだ。
 このグレーの胎土や、山呉須‥天然コバルトを使った絵付けの色あいが、僕たちの目でみれば大きな魅力になっているのだから、現代のもの好きな人びとの感覚というのは不思議なものではある。

 ところで、写真の4つの猪口のうち、所謂太白手は左のふたつで、では右ふたつは何かというと、こちらはおそらく同時代の瀬戸で作られた陶胎染付けの猪口であって、複雑だけれど、こちらはこちらでよく太白手と混同される。
 よく見るとわかる通り、こちらの胎土はよく知られている瀬戸の石皿のものとそっくりで、本業土と呼ばれる瀬戸の一般的な土に、比較的灰が多めの釉がかけられているので、ほのかに黄色っぽい。絵付けの筆致も、石皿のそれをそのまま猪口に写したようでもある。伊万里の、きめ細かで洗練された絵付けとはずいぶん雰囲気が違って、達者でありつつ、いい感じにいいかげん‥というか簡略化されている。もっとも、その点は美濃産も同様で、いきいきと奔放な筆使いは本当にすばらしい。


Cups, 
Left 2 - Mino, Right 2 - Seto   Japan  Late Edo period  19th century