2009年9月6日日曜日

硝子のコップ Glasses



 19世紀の英国製であるらしいコップを使っている。ねじり模様、というか螺旋模様の型吹き硝子で、西洋の食器にはよく見られるこの手の模様がなぜか好きなのだけれど、中でもこのコップのそれはひかえめで装飾的すぎず、とても好ましく思える。向こう側の模様と交差した斜線が格子を描き、そのあいまに気泡やピン・ホールが浮かぶ。水を注ぎ、光にかざせば更に美しい。

 今年の夏はとても蒸し暑い日が多かったような気がして、それはいつもよりたくさん水を飲んだことにもあらわれている。夏のはじめから活躍していた気に入りのコップは、息苦しいほど蒸し暑い日には少し小さく、2度、3度とおかわりをするのが習慣になった。そんなことを特別に意識していたわけではないのだけれど、明治の後期ごろに作られたという型吹きのコップは、ちょうどよい容量でいちばん暑い日々の喉をうるおしてくれた。はからずも先の英国製と同じころのもので、そっけないと言えるくらいすっきりとした形も薄作りの軽やかさも、大きさを除けばよく似ている。硝子が溶けて流れながら、マーブル模様のようにそのまま固まってしまったようなムラと気泡は、100年以上前のその瞬間の空気をそのままそこに残しているようで、眺めながら硝子職人のリズムを想う。

 カフェなどでよく使用されているDuralex(デュラレックス)ブランドのコップ。車のフロント・ガラスを作っていた技術を活かして、この強化ガラスのテーブル・ウェアの生産を始めたのは、フランスの国営企業らしい。有名なのはPicardie(ピカルディ)というタイプだけれど、愛用しているのはこれもごくシンプルなデザインのもので、Bodega(ボデガ)という名前だそうだ。大量生産品とはいえ昔ながらの吹き硝子の手法で作られていて、同じデザインといっても、当然ながらひとつひとつは微妙に異なる。口縁を切った跡も見込みの傾きもそれぞれで、どれにしようかと店頭で見比べるのもまた楽しくて、1杯のコーヒーより安い値段のコップではあっても、気持ちに与えてくれるものは大きい。


Glasses L to R “Bodega” by Duralex designed in 20th century, Japan late Meiji period 19th century, England 19th century