そば猪口は骨董の入門編、ということがよく言われている。実際にたくさんのものが残されているし、絵柄も豊富なのでコレクションの対象としては最適であるから、確かにそうなのだろう。
ところが、ポピュラーになるということはそれだけ求める人も多くなるわけだから、当然、良いもの・珍しいものはそれなりに高価になり、気軽な入門編などとは言い難い。叔父などに昔は安かった、と言われるけれど、残念ながら今は昔ではない。料治熊太さんの本にあるような掘り出しの可能性は全くない。いきおい手もとに集まってくるものは傷ものばかりになる。
気に入りの猪口をみっつ並べてみた。どれもニュウ‥ひびや、欠けがある。いま傍らにあるのは、そのおかげだ。もちろんたまには自分で金繕いをしなければならない。それでも、こうして眺めていればなんだか幸せなのだから、欠けていてくれるのも悪いことではない。
ところで、そば猪口そばちょくというけれど、いったいこれはいつ頃からの呼び名なのだろう。現存する数から考えても、これらがすべて蕎麦つゆ用だったとは思えないし、古いタイプのものはそば猪口というには小さすぎるし、おそらくぐいのみから向付け、湯のみなど、日常のいろいろな用途に使われたのだろう。
カイ・フランク‥Kaj Franckも影響を受けたと思われる、スタッキング‥重ね置きできるシンプルかつ美しい器形といい、何種類あるのか見当もつかないくらい多彩な絵付けの洗練された魅力といい、人の歴史上でももっとも豊かな日用食器であることは間違いない。
Soba-Tyoku ..Porcelain, Imari Ware, Japan 17-18th century